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AI×実験自動化の潮流① ― Orbis Medicinesが示す「Lab-in-the-Loop」創薬の可能性

トップページ > ブログ・最新情報一覧 > AI×実験自動化の潮流① ― Orbis Medicinesが示す「Lab-in-the-Loop」創薬の可能性 2026.8.25 tue

2026.8.25 tue
AI創薬 × 実験自動化
AI創薬は、「AIが有望な化合物を設計・提案する」という枠組みを超えて次のステージへと進んでいます。近年注目を集めているのが、分子設計・合成・評価・学習を一つの閉ループに統合する「Lab-in-the-Loop」という研究アプローチです。AIが設計した仮説を自動化実験によって迅速に検証し、その結果を再びAIにフィードバックすることで創薬サイクルを加速させる試みが進んでいます。
本稿では、その最前線を走るデンマーク発の創薬スタートアップ Orbis Medicines の取り組みを起点に、AIと実験自動化の融合がもたらす創薬研究の変革と、それが日本の研究現場にとってどのような意味を持つのかを解説します。
01

AI創薬の新たな潮流:分業から「閉ループ」へ

これまでのAI創薬は、AIが候補化合物を提案し、人間が実験でそれを検証するという分業型のアプローチが主流でした。しかし今、業界の関心はさらに一歩先へと進んでいます。

分子設計だけでなく、実験の実行・評価・学習までを一つの閉ループとして統合する。これが「AI×実験自動化(Lab-in-the-Loop)」と呼ばれる、次世代創薬の中核概念です。

AIが仮説を生成し、自動化された実験設備がそれを検証し、得られた結果を再びAIが学習する。このサイクルを高速で回すことで、従来の創薬プロセスでは到達できなかった探索効率が実現されようとしています。

Lab-in-the-Loop の基本サイクル

① AIが分子を設計 ② 自動設備が合成・評価 ③ データをAIが学習 ④ 次の分子を設計

この考え方を実装し、実際に成果を挙げつつある企業の1つが創薬スタートアップ Orbis Medicines です。

02

Orbis Medicinesが挑む AI×自動実験プラットフォームによる「経口マクロサイクル」の創出

Orbis MedicinesのAI×自動実験プラットフォーム
出典:当社作成(AIツール使用)

バイオ医薬品(抗体医薬など)は高い治療効果を持つ一方、その多くは注射剤としてしか投与できません。患者にとってはより服用しやすい経口薬へのニーズが根強く、創薬業界では長年にわたり次のような課題が議論されてきました。

「注射剤並みの効果を持ちながら、飲み薬として投与できる医薬品」をいかに実現するか。

Orbis Medicines は、この難題に対して独自の「nCycles」と呼ばれる完全合成のマクロサイクル化合物群を、自社プラットフォーム「nGen」によって設計・創出しています。

POINT

nCycles は経口吸収性と膜透過性を最適化するよう設計されており、これまで注射でしか投与できなかった標的にも、経口薬でアプローチできる可能性を切り拓く分子群です。

マクロサイクルは、低分子医薬と抗体医薬の中間に位置するモダリティとして期待されている一方、その化学空間は膨大で、従来の研究手法では十分な探索が困難でした。そこで Orbis Medicines は、AIと実験自動化を融合させた研究開発体制を構築することで、この巨大な化学空間の探索に本格的に挑んでいます。

03

AI×自動実験を中核とした創薬プラットフォーム「nGen」

Orbis Medicines の特徴は、AIによる分子設計にとどまらず、実験そのものを大規模に自動化している点にあります。nGen プラットフォームは、以下の要素を一体化した仕組みで構成されています。

  • ハイスループットな自動合成:人手を介さない大規模並列合成
  • 大規模スクリーニングとアッセイ:迅速かつ標準化された評価
  • 自動データ取得:実験結果をリアルタイムでデジタル化
  • AIによる解析と次候補の設計:データから次の一手を自動導出

同社は数十万規模の類縁体を高速に合成・評価するプロセスを回しています。さらに、AIスーパーコンピュータ「Gefion」の活用によって、この探索・学習サイクルをさらに加速させる取り組みも進めています。

この一体化されたプロセスは「Lab-in-the-Loop」と呼ばれ、AIと実験基盤の融合こそが自分たちの競争力の源泉であると明確に位置づけています。

04

なぜ創薬研究に「自動合成」が不可欠なのか

AI創薬というと、大規模言語モデルや生成AIによる分子設計の話題が先行しがちです。しかし実際の創薬サイクルは、次の三つのステップから成り立っています。

  1. AIが候補化合物を設計する
  2. 実験でその性質を検証する
  3. 得られた結果をAIが学習し、次の設計に活かす

このサイクルの中で、最もボトルネックになりやすいのが2番目の「実験」です。どれほど優れたAIが分子を提案しても、それを合成し検証する速度が追いつかなければ、学習に使えるデータは増えていきません。

特に中分子のような複雑な化合物群では、候補となる構造の数が膨大になるため、人手による合成・評価では到底スケールが追いつかないのが実情です。

  従来型創薬 Lab-in-the-Loop型
実験主体 人手中心 自動合成・自動評価
1サイクルの速度 週~月単位 日~時間単位
取得データ量 限定的 桁違いに大量
AIとの連携 限定的(オフライン) 継続学習ループを形成
属人性 高い 低い(標準化)

近年のAI創薬では、「どれだけ優れたAIを持っているか」だけでなく、どれだけ高速かつ大量に実験を回せるかが競争優位を左右する要素になりつつあります。Orbis Medicines の事例が示しているのは、AI単体ではなく、AIと自動合成・自動評価の基盤を一体化させたプラットフォームこそが、次世代創薬の本質であるということです。

05

自動合成がもたらすもう一つの価値:属人化からの解放

実験自動化の価値は、スピード向上だけにとどまりません。特に重要なのが、研究現場に根強く残る属人化の解消です。

多くの研究機関や企業では、次のような課題を抱えています。

研究現場が抱える属人化の課題

  • 熟練した研究者でなければ再現できない実験手技
  • 個人の経験や勘に依存した条件最適化
  • 実験者ごとのばらつきによるデータ品質の低下
  • 退職や異動によって失われるノウハウ

こうした属人性は、研究開発のスピードを落とすだけでなく、組織として知識やノウハウを蓄積していく上でも大きな障害となります。実験工程を自動化し、デジタル化されたワークフローに置き換えることで、次のような効果が得られます。

自動化がもたらす効果

  • 実験の再現性向上
  • 技術継承の容易化
  • データ品質の均質化
  • AI学習用データの継続的な蓄積

研究者は定型的な合成・評価作業から解放され、実験戦略の立案やデータの解釈といった、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。

AIモデルの性能を最終的に支えるのは、高品質な実験データです。その意味において自動合成は、AI創薬を加速させる要素技術だといえます。
06

創薬研究全体に広がる自動化の波

こうした動きは Orbis Medicines に限った話ではありません。近年、次のようなグローバルプレイヤーが、自動化ラボとAIを統合した研究基盤の構築を加速させています。

  • Recursion(米国)
  • Insilico Medicine(香港/米国)
  • XtalPi(中国/米国)

大手製薬企業においても、自動合成設備やハイスループット評価系への投資は加速しており、創薬研究のデジタルトランスフォーメーション(DX)は今後さらに進展していくと考えられます。

AI×自動実験プラットフォームは、これまでの研究開発のあり方そのものを変える新たなインフラになろうとしています。
07

当社が提供する海外CROの自動合成サービス

株式会社アクセラレート・バイオでは、こうした世界的な研究開発トレンドを踏まえ、海外CROとのネットワークを活用した自動合成サービスの紹介・導入支援を行っています。

近年、多くの海外CROでは、次のような先進的なサービスを展開しています。

  • 自動化合成設備によるハイスループット合成
  • ハイスループットケミストリーによる大規模スクリーニング
  • Design-Make-Test-Analyze(DMTA)サイクルの統合運用
  • AI支援によるライブラリー設計

国内だけではアクセスが難しい、こうした最先端の実験自動化環境を活用することで、次のような効果が期待できます。

海外CRO活用によって得られる価値

  • 創薬プロジェクトの高速化
  • ヒット探索効率の向上
  • 社内合成リソース不足の解消
  • 属人化した実験業務からの解放
  • AI学習に活用できるデータ取得量の拡大

AI創薬が次のステージへ進む中で本当に重要なのは、AIツールを導入することそのものではなく、AIと実験を一体化した研究開発体制をいかに構築するかという点にあります。Orbis Medicines の事例は、その方向性を示す象徴的なケースといえるでしょう。

これからの創薬競争では、優れたAIモデルを持つ企業以上に、「AIが学習し続けられる実験基盤」を持つ企業が、大きな優位性を獲得していくと考えられます。

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